君しか見えないもの

部屋で簡単な夜食済ませ、
『寒いけど、せっかくなんで、ちょっとだけ外で散歩しない?』
彼微笑ましい表情でそう言った。

澄んだ空気で、寒いけど気持ちよかった。
夜空の下、あんまり人影がない公園で、
私たち、少し距離を取って歩いていた。
外で2人いるのは久しぶりで、なんか少し緊張してきた。

彼は、軽装のジャージとスニーカー、
髪がセットしていなく、
帽子のふちから僅かな髪の毛が見えたぐらい。
マフラーを高く高く巻いて、マスクでもう一層してしまい、
あんまりにも重ねた装備で、優しい目線がしか見えないのに、
こんなに普通な服でも、かっこよさが全然隠されず、
思わずちらっと見てしまった。

目線を感じた彼がこちらに振り向け、目を細めた。
『何を見てんの?俺、今どこか変?』
言いながら、自分の服装をチェック『まあ、めちゃレジャーだけど』
「うん、何でもない、これでいいの、慶ちゃんが」
『え、そう?まあーこういう格好って、あんたしか見せないけど』
相変わらず、慶ちゃんらしい優しいフォロー、
うれしいけど、少し恥ずかしくなってた。
何をしゃべらなきゃ…

「慶ちゃんやっぱ、普段服ちゃんとこだわってるね!女子より全然すごいもん」
『ww女子と比べるの?』
「だって私よりすごいもん。」
『自分をそこまで削すのはやめてw』
「だってその前ってさ、職場の同期の男の子に言われたの。『女子力まだまだだなあー』って」
『え、うそ、彼は何を見て言ってんの』
「あの日寝坊で髪の毛ちゃんと片づけなくて、後ろってね、少し寝癖ついたんで言われてただけ。」
『それだけ?』
「その時はね?wwいや、でも、彼とずいぶん仲良しだから、普段冗談話ばかりで」
『へえー』
「彼は、『いや、でもこれはこれでいいんだよ、ある意味かわいい』って。ある意味なんてひどくない?ww」
『…確かにひどいね、ある意味ってw』
笑いながら、慶ちゃんはトーンが少し低くなるように聞こえたけど、
表情はっきり見えなく、そのまま他の話題に振った。


部屋に戻り、玄関で重く重ねてた帽子、マフラーとマスクを外し、
やっと慶ちゃんのシュッとした顔見えた。

彼はしゃがんでいた姿勢で、スニーカーを丁寧に片づけてた。
あんまり見えない頭頂部の髪の毛が見えた。
先被った帽子でちょっとペタッとしたけど、サラサラで…
(『あー触ると気持ちよさそう…』)
つい、彼の頭をポンポンって撫でてみたら、
彼が見上げて、目を細めにして優しい笑顔。

そして、彼が立ち上がった瞬間、
私を引っ張って抱きしめてきた。
「う、な、なんで急に?」
びっくりした私を、ぎゅっーーと、腕に力を入れた彼は、
何も言わず、ただただ私の後ろ髪を優しく撫でていた。
彼の胸にくっついて、彼の温度を感じて、心拍数が上がる一方…

『…寝癖ってさ、俺しか見えないはずなのになあ…』彼は囁いた。
「うん?」
『うんー何でもない。大好き。』
そう言って、彼は私の頭にキスを下ろし、自分のあごをポンと置いていた。
さらにぎゅっと抱きしめされ、もう呼吸できない…。

「け、慶ちゃん、苦しい。…」
『あ、ごめんごめんw苦しかった?』少し腕をほどけてくれて、
やっと顔が彼の胸から解放された。

呼吸をしようと思い顔上げた瞬間、彼から唇にキスを軽く下ろした。
優しい目で見つめられ、顔が熱くて熱くてしょうがない。


『この表情、かわいい。可愛すぎ。誰にも見せないで。お願い』


この言葉に、もう胸がぎゅっと締めすぎで、
頷くしかできなかった。
…もう、他のものに見せられるもんか。